リウマチコラム

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Vol.10関節リウマチ治療の経済的課題(後)東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 講師 田中 榮一 先生

病気の治療を考えるとき、経済的な負担は大きな課題となります。関節リウマチの治療薬は高額なものが増え、経済的負担が治療法の選択やその継続に影響を与えることが少なくありません。しかし、その一方で、早期からの積極的な治療が、将来的には治療費の軽減に結びつくことを示唆する研究結果も出ています。経済的負担と治療効果のバランスをどのように考えればよいのでしょうか。
前回に引き続き、関節リウマチの治療を医療経済学の面からも研究されている東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの田中榮一先生に、関節リウマチ治療の中でも高額なバイオ医薬品における費用対効果についてお話をうかがいました。

バイオ医薬品の費用対効果は妥当である

どのような病気の治療においても、費用に見合った効果が得られるかどうかを見極めることが大切です。

関節リウマチの治療薬は、以前に比べ大変よく効くようになってきましたが、患者さんの負担額は増加傾向にあります。(詳しくは「Vol.9関節リウマチ治療の経済的課題(前) 」へ)
しかしながら、関節リウマチの治療がうまくいけば、関節の変形の防止・関節手術の回避が可能になります。すなわち、寝たきりになったり、介護を受ける必要がなくなることが期待できます。さらには就労が可能となることが期待されますので、将来的な医療費は軽減されると考えられます。

これらのことを踏まえて、バイオ医薬品などの高額なお薬に支払うそれだけの価値があるかどうかを長期的な視点で検討するのが、費用対効果の検討です。

当センターに通院している患者さんを対象にバイオ医薬品の費用対効果の調査をしたところ、医療経済学的に許容できることが試算されました。つまり、バイオ医薬品は費用に見合うだけの治療効果があると考えてもよいでしょう。


経済的には使用・継続が難しい患者さんも……

しかし、実際には、経済的な理由からバイオ医薬品の使用・継続ができないという患者さんは少なくありません。

患者会「日本リウマチ友の会」が行ったアンケート調査※1(回答約9,000人)によると、30%にあたる、約3100人の方がバイオ医薬品の投与をうけていました。「現在はバイオ医薬品を使用していない」とする患者さんのうち、「過去に投与を受けていたが現在は使用していない」という方は約480人で、そのうち11%の人が「経済的な理由」で中止したそうです。
また、バイオ医薬品を使用したことがない患者さんは約5100人で、そのうち28%(約1,700人)の人が主治医からバイオ医薬品を勧められながらも断っていました。こちらも、経済的理由が12%(約170人)でした。
全体をみてみると、約10%の患者さんが、経済的な理由でバイオ医薬品の使用をあきらめていることがわかりました。
※1  約1万5000人に調査票を送付。約9000人に回答を得た。


選択肢の一つとしてのバイオシミラー


「経済的な問題が積極的な治療を阻む
という状況は、改善しなくてはなりません」

抗リウマチ薬やバイオ医薬品は治療の初期段階から必要な薬剤を必要な量で正しく使用することが大切ですが、経済的な問題が積極的な治療を阻むという状況は、改善しなくてはなりません。
そのような観点から新たな治療の選択肢の一つになるのが、「バイオシミラー」です。 


すでに発売されている先行品の特許が切れてから別の会社で販売される医薬品を「後発医薬品」といいます。そのなかで、バイオ医薬品の後発医薬品を「バイオシミラー」、それ以外の後発医薬品を「ジェネリック医薬品」といいます。
ジェネリック医薬品は、分子量が小さく先行品と同じ化学構造をしていますが、分子量の大きいバイオシミラーの場合、化学構造は全く同一ではなく、ほぼ同じ構造をしています。そのため、バイオシミラーはジェネリック医薬品よりも多くの試験やチェックを行うことが必要とされ、有効性、安全性が同じであることが試験(治験)によって確かめられています。また、バイオシミラーの薬価は、先行品の7割程度に設定されています。
つまり、バイオシミラーは「ほとんど同じ成分、同じ効き目の安価なバイオ医薬品」といえます。

バイオシミラーはすでにヨーロッパを中心に多くの国々で使われています。
日本の国民医療費は年々増加し、平成26年度には40兆円を超えました。国民一人当たりに換算すると、年間でおよそ32万円の医療費が支払われています。
そのため、厚生労働省は、医療保険財政の改善などのために後発医薬品の普及を推進しています。
バイオシミラーは、患者さんの負担軽減だけでなく、国民医療費の削減にも貢献することが期待されています。


国内外で、バイオシミラーを長期間使用した患者さんや、先行品からバイオシミラーに切り替えた患者さんの治療経過は良好で、先行品と同じように使えると報告されています。
バイオシミラーの薬価は、先行品の7割程度ですので、薬剤費の負担が軽くなれば、積極的な治療を継続しやすくなり、寛解を目指せる患者さんが増えるかもしれません。

今後

今後に向けて、バイオ医薬品の治療が必要な患者さんが、必要なときに治療をうけられるようになることを目指し、治療の費用対効果を多方面から検討していかなくてはなりません。重要な課題であり、それを明らかにしていくことも私たち関節リウマチの治療に関わる医師の責務であると考えています。また、制度の面では、ルールを決め、その基準を満たす患者さんに治療費の補助などの支援体制が整備されることが望まれます。

最後に

関節リウマチの患者さんは、病気のことや治療のこと、日常生活のことなど、いろいろ知らなければならないことが多く、大変だと思いますが、病気の状態と医療費の関係、バイオ医薬品やバイオシミラーのことなどにも知識を広げることによって、病気や治療、将来への不安が少し和らぐこともあるので、ぜひ正しい知識をもっていただきたいと思います。


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