リウマチコラム

バックナンバー
Vol.8 リウマチ患者さんの災害準備と対応(後)実際に避難所生活を送ることになったら 独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 リウマチ疾患研究センター センター長 齋藤 輝信 先生

さまざまな制約がある避難所での生活。環境の変化やストレスは関節リウマチの病状にも影響します。しかし、自分でできることを日々続けることで悪化を防ぐことはできます。リウマチ患者さんの災害準備と対応の後編では、避難生活を余儀なくされた際のセルフケアやいちばん心配なお薬の確保について、仙台西多賀病院 リウマチ疾患研究センター
センター長の齋藤輝信先生にお話をうかがいました。

薬の確保は、災害派遣医療チーム(DMAT)などを頼る

大きな災害のためにしばらく避難所で生活するという事態は、誰にでも起こり得ることです。そのようなとき、まず心配になるのはお薬のことだと思います。前回のコラムでも、2、3日分のお薬を入れたお薬セットは非常用持ち出し袋とは別にして、最優先に持ち出してほしいとお話しました。

地震や台風などによる災害が起こると、かかりつけの病院が被災することも考えられます。その場合は、前回のコラムでもお話しした「災害時リウマチ支援事業協力医療機関」で最寄りの災害拠点病院で診療を受け、薬をもらうことができます。
また、早い時期に「災害派遣医療チーム=DAMT(ディーマット)」(※)が被災された地域に入ります。
DMATは、災害発生からおおむね48時間以内に活動できる能力を備えた医療チームです。避難所やその近くでDMATが活動を始めたら、すぐに相談に行きましょう。
もちろん、ふだんから通院している病院が診療をしていれば、そこで診てもらい薬の処方をしてもらうのがもっとも安心です。そのためにも、病院の電話番号は携帯電話に登録したり、メモに書いておいたりするとよいでしょう。


避難所の医療活動

DMATが持参した医薬品のなかに、皆さんがいつも服用しているお薬がないこともありますが、近い成分のものであれば問題ありません。ステロイド薬を服用中の方は、急に中断すると症状が悪化することがあります。中断しないためにもDMATも含め、臨時の診療所や診療している病院を利用しましょう。


日頃から飲んでいるお薬を処方してもらうためには、お薬手帳やお薬の名前を控えたメモを携帯しておきましょう。服用しているお薬がない場合でも、同じ系列のより近いものを処方してもらえます。
また、DMATはチームのメンバーが途中で交代することが多いのも事実です。医療者側が引継ぎをしっかりしなければならないのは当然のことですが、患者さんもDMATからもらったお薬の名前をメモなどに控えておくとよいでしょう。

非常用のお薬セットなどを持ち出せずに避難所に駆け込むということもあるかもしれません。その場合は、あまり動揺せず、医療活動の情報を積極的に集め、DMATなどの医療チームが来るのを待ちましょう。


避難所の医療活動 保健師

また、保健師などが避難所を巡回することもあるので、その際にご自身の病気や体調について話しておくと、さまざまな配慮や、情報の提供を受けられることがあります。このようなことが避難所生活を送るうえでの安心につながります。





※災害派遣医療チーム=DAMT(ディーマット)
「災害急性期」(災害発生からおおむね48時間以内)に活動できる能力を備えた医療チームのこと。医師、看護師、業務整理員(医師・看護師以外の医療職および事務職員)で構成されます。
http://www.dmat.jp/DMAT.html

感染症予防はきわめて大切!

災害時の対応といっても、災害の種類や大きさ、また避難所の規模によっても、被災された方々の生活は異なります。ただし、どのような場合であっても、避難所など多くの人が生活する場で、もっとも心配されるのが感染症です。感染症の予防でポイントとなるのは「水」と「空気」です。水は、手洗い、うがいに必要です。空気というのは、ウイルスが浮遊しているスペースに高齢者や乳児・幼児、関節リウマチをはじめとする病気のある方がいると、通常よりも感染症の拡大や重症化が懸念されます。

関節リウマチの治療でバイオ医薬品やステロイド薬による治療を受けている方は、より感染症への注意が必要です。避難所など多くの人が集まるところではいつにも増して感染予防を心がけてください。

手洗い

感染予防でもっとも効果があるのは手洗いです。せっけんを使って流水で洗うのが最善ですが、災害後は水の確保も難しいことが多いので、手指消毒用のアルコール(速乾性アルコール手指消毒薬)が避難所に用意されていれば、食事の前やトイレの後には必ず利用してください。ただし、アルコール消毒薬もすぐになくなってしまうことがあります。



アルコール消毒

とくに冬は、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症や、ウイルス性胃腸炎が流行しやすいので注意が必要です。
マスクを持っていれば常に着用するようにしましょう。使用済みのマスクの管理にも注意が必要です。感染拡大を防ぐという意味からも避難所の決められた場所に廃棄するようにしましょう。



栄養と休養をとることも、感染予防につながります。避難所生活ではどちらも難しいですが、できるだけ規則正しく食事をとり、体を休めることが大切です。

東日本大震災のときには、避難所で感染症が発生することはありましたが、医療チームの努力と被災者の協力により大流行は防ぐことができました。関節リウマチの方や手術後の方、産後の方、慢性疾患をおもちの高齢者などは、感染症が重症化しやすいので、このような方たちと一般の人では、本来、避難所を分けるべきなのです。そして、2、3日分の水と食料を十分備蓄した避難所を地域ごとに整備することが、今後の災害対策には求められます。

【災害を体験された方の声】

災害を体験された方の声:水がでないことが困った。水洗トイレもすぐにつまってしまった。車があってもガソリンがなく、移動が困難だった。下着や汚れた服を洗濯することができなかった。なかなか家族と連絡がとれなかったことがストレスになった。


ほかにも、災害派遣医療チームは、感染症や外傷に対する備えはあるものの、慢性疾患の患者さんへの医療支援が遅れがちだったという声もありました。
当院でも、地震直後は入院患者さんも職員も1日おにぎり1個で乗り切らねばなりませんでした。

体調をセルフチェックして、いち早く不調に気づく

避難生活で体調を崩したり、病気が悪化したらどうしようという不安もあることでしょう。今後の生活のことなども含め、被災された方の心身のストレスは大きく、関節リウマチにもよくない影響を与えますが、心配しすぎるのはかえってよくありません。
体調の変化を客観的に観察するために、私がおすすめしたいのは「毎日のセルフチェック」です。

「毎日のセルフチェック」のポイント
①関節のこわばり

関節のこわばり

朝起きたときの関節のこわばりが、どれくらい続くかを観察します。午前中いっぱいこわばりが続く場合は、注意が必要です。



②罹患関節の状態

罹患関節の状態

罹患関節(関節リウマチの症状が出ている関節)のなかで、いちばん症状が強い関節の状態を観察します。症状が悪化しているときは、日頃できている動作がしにくくなります。たとえばひざの場合は、トイレの動作がつらくなるなどです。

③微熱や食欲の低下などの全身状態

全身の症状

熱っぽい、食欲がない、だるいといった全身の症状がある場合は、ストレスや疲れのために炎症が起きていると考えられます。



上記の3つのほかにも、以下の表を参考にご自身の体調をチェックする習慣をつけて、今日は体調がよくないと思ったら、無理をせず、できるだけあたたかくして静かに過ごしましょう。

リウマチ症状セルフチェック

無理をしないことが病気の再燃を予防する
斉藤先生
「非常時ではついがんばってしま
いますが、無理は禁物です」

避難所では、そこに集まった方々が協力し合ってしばらく生活をすることになります。したがって、仕事を分担する必要もでてきます。できる範囲で協力することは大切ですが、関節に負担のかかる作業は事情を説明して避けるようにしましょう。とくに体調の悪いときは、病気の再燃を防ぐために決して無理をしないでください。

関節リウマチの方は、その日の体調によって、昨日できたことが今日はできないということがよくあります。「毎日のセルフチェック」で、体調がよくないと判断したら、きちんと説明して理解を得ましょう。周囲の人とコミュニケーションをよくしておくと、体調管理がしやすくなります。

慢性疾患のために無理ができないという人は、関節リウマチの患者さんのほかにもいるはずなので、お互いに助け合うことも必要です。同じように不自由や不便を感じていることがあれば、避難所の環境改善にその意見を生かすこともできるでしょう。
そうすることで、避難所で感じるストレスは大きく軽減するはずです。

「精神的なストレスから体調を崩すことが多い」
災害など思いがけないことに遭遇すると、大きなストレスにさいなまれます。避難場所では、「自宅はどうなっているか」「薬を取りに行きたい」「空き巣が心配」など考えがちですが、考えても仕方がないことに対しては「行けるときがきたら、行こう」と割り切るようにします。前向きに諦めるということもこのような状況では、必要となります。
必死になりすぎるとストレスが高じますので、少しゆとりをもてるとよいですね。時間が経てば、日常は徐々に戻ってきます。ストレスからリウマチの症状を悪化させたり、体調を崩したりしないようにしていただきたいと思います。

1日1回の「リウマチ体操」で気分転換しながら関節の可動域を保つ

避難所での体調管理の基本は、関節リウマチの「日常のケア」と同じです。自宅と同じように生活することは難しいですが、できることはあります。
避難所のような集団生活の場では、周囲の人を気遣ってやめてしまう人が少なくありませんが、ぜひ行っていただきたいのは「リウマチ体操」です。

避難所生活では思うように体を動かしたり、のびのびと寝ることはできませんが、1日1回リウマチ体操を行うことにより関節の可動域を保つことができます。
避難所で近くに体調の悪い人がいると、体操などは遠慮してしまいますが、リウマチ体操は適度な運動にもなり、また気分転換の効果もあります。天気のよい暖かな日には、リウマチではない方々も誘って、屋外で行うのはいかがでしょうか。リウマチではなくても関節に障害がある方も少なくありません。一緒にリウマチ体操をすることで、コミュニケーションを築くことができるかもしれません。

きちんと体調管理をしていても体調が悪くなることはあります。その場合は、体調不良に気づいたらすぐにDMATなどの医療チームや保健師に相談しましょう。早めに対処することが、病気の悪化を食い止めます。

日頃の健康管理が災害対策につながる

災害はいつ起こるかわかりませんが、いざというときのために備えと心構えができていれば、病気への影響を最小限に食い止めることができます。
自分で自分を守るために、被災時に心がけたいことは次の3つです。

災害時に心がけたいこと 治療を継続する 環境の変化などに取り乱さないようにする 現在の体調を維持する


関節リウマチは、服薬や日常のケアによって健康な人とほぼ同じ生活を送ることが可能になってきました。平常時の自己管理も災害対策の1つと捉えることができるので、毎日のケアを大切にしましょう。

ここがポイント!災害対策・お薬の確保や医療相談で頼りになる、災害派遣医療チーム(DMAT)の活動情報をキャッチする・できる限りの感染予防対策を実行する・1日1回の「リウマチ体操」で関節の可動域を保つ
バックナンバー
Vol.11関節リウマチに合併しやすい「シェーグレン症候群」への対策~乾燥による不快症状を改善するために~ 筑波大学医学医療系 内科(膠原病・リウマチ・アレルギー) 教授 住田 孝之先生
Vol.10関節リウマチ治療の経済的課題(後)東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 講師 田中 榮一 先生
Vol.9関節リウマチ治療の経済的課題(前)東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 講師 田中 榮一 先生
Vol.7 リウマチ患者さんの災害準備と対応(前)いざというとき本当に役立つ「災害への備え」独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院リウマチ疾患研究センター センター長 齋藤 輝信 先生
コラム6タイトル
コラム5タイトル
コラム4タイトル
コラム3タイトル
コラム2タイトル
コラム1タイトル