リウマチコラム

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Vol.9関節リウマチ治療の経済的課題(前)東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター 講師 田中 榮一 先生

治療費の負担が重い。そう感じている関節リウマチの患者さんは少なくありません。高額なお薬代のほかに、毎月の検査費や通院のための交通費などもかさみ、それが長期間続くのですから……。そこで今回は、患者さんを取り巻く医療費の実情と課題、医療経済からみた関節リウマチの治療について、東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの田中榮一先生にお話をうかがいました。関節リウマチに関する医療経済を専門とする田中先生のお話を、2回に分けてお届けします。

よく効くようになった分、
薬価が高い関節リウマチのお薬

関節リウマチのお薬


関節リウマチは、体を守る免疫システムに異常が起こり、自分の細胞を攻撃してしまう病気です。攻撃のターゲットとなるのは、関節の内側を覆う「滑膜」です。攻撃によって滑膜に炎症が起こると、腫れて痛みが生じ、徐々に関節が破壊されていきます。
治療の根幹はお薬(薬物療法)ですが、関節リウマチのお薬は、病気そのものに働きかけるものと、痛みなどの症状をやわらげるものに分けられます。


関節リウマチの治療薬 病気そのものに働きかけるお薬(抗リウマチ薬) 免疫抑制剤「メトトレキサート」が中心。SH基剤「ブシラミン」やサルファ剤「サラゾスルファピリジン」を使うこともある。分子レベルで関節の破壊を抑える「バイオ医薬品」が有効な人もいる。症状をやわらげるお薬 痛みや腫れなど、炎症の症状をやわらげる「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」や炎症を鎮め、病気の活動性を抑える「ステロイド薬」 その他。 NSAIDsによる胃炎などを防ぐための胃薬、ステロイド薬の長期使用により起こる骨粗鬆症を防ぐためのお薬など。

関節リウマチの治療薬

これらのお薬は進化し、より効果の高いものが次々と登場しています。しかし、よく効く新しいお薬は薬価が高く、毎月の医療費がかさんでしまうため、治療を継続する上で大きな問題となることも少なくありません。



関節リウマチ治療の経済的負担というと、バイオ医薬品の価格ばかりが注目されがちですが、バイオ医薬品以外のお薬で治療をしている方も、経済的負担が増しているのが実情です。

知っておきたい医療費の成り立ち
医療費には「直接費用」と「間接費用」がある

医療費とひとくちにいっても、その中身は幅広いので、はじめに医療費の成り立ちをご説明しましょう。下表のように医療費は「直接費用」と「間接費用」に分けられます。直接費用には、医療機関の窓口で支払う「直接医療費」と通院のための交通費や装具費などの「直接非医療費」があります。

直接費用と間接費用


外来通院中の患者さんのお薬代は、医療機関の窓口で支払う直接医療費の「外来医療費」に含まれます。また、間接費用とは患者さんや介護者の方が働けなくなる、また仕事になんらかの制限が増えることなどによる社会的損失をいいます。


統計データからみえてくる治療費の状況

◆外来医療費でみると……
当センターに通院する関節リウマチの患者さんについて薬の費用を全額自己負担したと仮定した場合、年間の外来医療費は2000年には平均約28.7万円でしたが、2007年には約36.7万円と約3割増加していました。(2007年IORRA調査)

関節リウマチ患者1人あたりの年間外来医療費の推移

東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターに通院する関節リウマチ患者の前向きコホート「IORRAデータベース」を用いて調査。
2003年以降金額が急増しているのは、この年からバイオ医薬品が関節リウマチの治療に使用できるようになったためだと考えられる。2007年の時点で、同センターの患者さんでバイオ医薬品を使用している方の割合は約5%。


◆患者さんが自己負担する直接医療費でみると……
また、当センターに通院する関節リウマチの患者さんに対して直接医療費に関するアンケート調査をしたところ、患者さん1人あたりの直接医療費(患者さんの実際の支払い分、病院・薬局への支払い額、代替医療費)は年々増加し、2007年は年間あたりの平均自己負担額は約26万円、毎月2万円強でした。(2007年IORRA調査)

さらにバイオ医薬品を使用している方のみの直接医療費をみると、負担はより大きく、年間あたり平均自己負担額は約70万円、毎月6万円弱となります。
現在では、調査当時よりもバイオ医薬品を使用している方の割合が増えているため、患者さん全体の直接医療費はさらに高額になっていると思われます。

「日本リウマチ友の会」の
アンケート調査からわかること

関節リウマチは、30歳代から50歳代の女性に多い病気ですが、この年代は子どもの教育費などへの出費も大きく、細かな支出を切り詰めて医療費を捻出している方も少なくありません。

田中榮一先生
「患者さんの多くが治療を続けるため
に何らかの努力をされています」

患者会「日本リウマチ友の会」が行ったアンケート調査によると、回答のあった約9000人のうち、バイオ医薬品を使用している方は3100人。そのうちの36%、つまり3人に1人は「経済的な負担が大きく、支出を切り詰めて治療を受けている」と答えています。
具体的には、ご自分の被服費や娯楽費、美容費、交際費、さらには食費などを切り詰めているということがわかりました。

高額な医療費を支払っても治療を続けることにより、
生涯の薬剤費は抑えられる

関節リウマチの治療

前述した通り、関節リウマチの治療薬は進化し、高い治療効果を望めるようになってきています。病気の発症後、早期に疾患活動性を抑えたほうが「寛解」にもち込みやすいこともわかっており、より積極的な薬物療法を選択するという方針がとられます。



また、良い状態を保つことは経済的にもメリットがあります。
直接医療費にかかる費用について、いくつかの指標で調査したところ、リウマチの状態をあらわすスコアであるDAS28や機能障害のスコアであるJ-HAQ、生活の質(QOL)を評価するEQ-5D、それぞれの悪化にしたがい、費用が増加するという結果でした。

各指標別のRA直接医療費
※DAS28:病気の活動性を表す指標。数値が高いほど疾患活動性が高い
 J-HAQ:機能障害を表す指標。数値が高いほど機能障害の程度が重い
 EQ-5D:QOLを表す指標。数値が低いほどQOLが低下する


さらに早期に積極的な治療を行い、より良い状態を保つことは、本人や介護者の方の労働力の低下などの間接費用を少なくすることも可能になります。
間接費用は見逃されやすいのですが、患者さん本人やご家族ばかりでなく、社会への影響も少なくありません。

IORRA調査(2008年度)でも、働いている関節リウマチの患者さんのうち、3分の1の方が治療や症状悪化のために、常勤を続けることが難しかったり、パートタイムへの転職や離職などを経験したりしていました。また、関節リウマチのために家事を減らしたり、休んだりした患者さんの割合も約40%と高いものでした。

良い状態を保ち、発症前と同じように仕事や家事を行うことができれば、これらの制限を最小限に抑えることが可能となります。加えて、将来の医療費を抑えるとともに、生涯の医療費も軽減できると考えられます。

関節リウマチのように、長く付き合っていく病気では、患者さんの経済的負担や国が支出する医療費の問題など、経済的な面についてもきちんと考えることが重要です。医療を取り巻く問題を、経済学的に解析することを医療経済学といいますが、近年、この医療経済学の重要性は増してきています。

次回は、治療費をおさえる費用対効果についてお話しします。

ここがポイント!関節リウマチの医療経済 関節リウマチの治療薬は進化し、高い効果を望めるようになった反面、経済的な負担も大きくなっている 機能障害が進むと医療費は高額になる 早期からの積極的な薬物療法、治療の継続によって、生涯にかかる医療費が抑えられる可能性がある

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